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田中 草太; 木野内 忠稔*; 藤井 告*; 今中 哲二*; 高橋 知之*; 福谷 哲*; 牧 大介*; 納冨 昭弘*; 高橋 千太郎*
Scientific Reports (Internet), 10, p.16055_1 - 16055_7, 2020/09
被引用回数:7 パーセンタイル:53.13(Multidisciplinary Sciences)福島第一原子力発電所事故以降、鱗翅目昆虫における形態異常が報告されてきた。しかしながら、この形態異常が放射線によって直接引き起こされたかどうかについては、吸収線量と線量効果関係の研究がなされていないため、明らかではない。本研究では、CsCl溶液を添加した人工飼料を用いてカイコに対する内部被ばく実験を実施し、形態異常を評価するために吸収線量を推定した。サナギの翅の長さと全長の比を被ばく群とコントロール群で比較した結果、有意差は認められなかった。この結果は、福島第一原子力発電所事故後のCs汚染による直接的な放射線影響により、鱗翅目昆虫に形態異常が生じる可能性が低いこと示唆している。
上田 大介*; 白井 孝司*; 舟山 知夫; 坂下 哲哉; 横田 裕一郎; 小林 泰彦
JAEA-Review 2014-050, JAEA Takasaki Annual Report 2013, P. 84, 2015/03
これまで産下2時間後のカイコ初期発生卵に10Gyの炭素イオンを照射すると短時間の発生停止の後に発生を再開するものの、傷害の修復は不完全であり、多くの卵が、産下12-13時間後に傷害核がアポトーシスにより排除されることで孵化することなく致死することを報告した。そこで、本研究では、カイコ初期発生卵における放射線に対する応答の詳細をさらに明らかにすべく、受精直前と受精後卵黄内核分裂期に照射を行うことでその影響を調査した。最初に、産下1.5時間の受精直前の卵に炭素イオン照射を行った。その結果、照射卵では受精直後に発生が停止し、非照射卵と比較すると平均して約2時間の発生遅延が認められた。この結果は、照射によって前核に生じたDNA損傷は受精を阻害しないことを意味する。次に、卵黄内核分裂期である産下6時間後の卵に炭素イオン照射を行い、その後の発生を調査した。その結果、非照射卵と比較して明らかな発生遅延が認められ、発生再開に要する時間は、産下1.5時間の卵の場合と較べ約2倍必要となることが明らかになった。
小林 泰彦; 木口 憲爾*
Isotope News, (593), p.9 - 12, 2003/09
イオンビームは、直進性や深度制御性が優れているため、生物組織中の特定の細胞や組織・器官を不活性化させて発生・分化過程や形態形成過程への影響を調べるなど、薬剤投与や外科的処置に代わる新しい解析プローブとして応用できる。今回は、カイコ幼虫への重イオン局部照射による微細外科手術(ラジオマイクロサージャリ)で造血器官や血球の生理機能の解析を試みた最近の研究成果を紹介し、ラジオマイクロサージャリ技術が従来の外科的な組織摘出法に代わる有効な生体機能の解析手段となることを示す。
Tu, Z.; 小林 泰彦; 木口 憲爾*; 渡辺 宏
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 206, p.591 - 595, 2003/05
われわれは原研高崎研究所に設置された重イオン照射装置を用いて、カイコのような小動物へのラジオサージャリー技術を確立した。今回、ヘリウムイオン(He, 12.5MeV/u, 水中飛程約1.5mm),炭素イオン(C, 18.3MeV/u, 水中飛程約1.1mm)及びネオンイオン(Ne, 17.5MeV/u, 水中飛程約0.6mm)など飛程の異なる3種の重イオンを家蚕(着色非休眠系統pnd pS)の幼虫に全体照射あるいは局部照射し、その生物影響の違いを調べるとともに、イオンの照射深度による生物影響も調査した。全体照射では、3種のイオン間に照射効果が明らかに異なり、飛程の長いものほど影響が大きいこと、局部照射では、存在部位の異なる標的組織・器官によってその影響が異なることが明らかになった。炭素イオンを用いてマイラーフィルム(厚さ100m)で覆うことにより照射深度を制御した場合は、真皮細胞がイオンの飛程末端までのどの部分で照射されるかによって、その鱗毛形成に障害を起こす程度が大きく変化することがわかった。イオンの照射深度を制御することにより、精確に標的組織・器官のみの機能破壊が可能である。
Tu, Z.; 小林 泰彦; 木口 憲爾*; 渡辺 宏; 山本 和生*
Journal of Radiation Research, 43(3), p.269 - 275, 2002/11
被引用回数:11 パーセンタイル:32.13(Biology)原研高崎研イオン照射研究施設(TIARA) に設置された生物用重イオン照射装置を利用し、重イオンビームの局部照射によるラジオサージャリー技術を用いてカイコの造血器官の機能解析を試みた。カイコ幼虫における血液中の血球密度の変動を調べた結果、非照射の対照蚕の5齢0日目から5齢3日目まで血液中の血球密度が発育に伴い徐々に上昇し、それ以降熟蚕期にかけて急上昇した。一方、4齢催眠期幼虫の造血器官に致死的線量の重イオンを局部照射した場合は、造血器官の機能のみが障害をうけ、5齢0日目から5齢3日目まで血球密度は変化しなかった。5齢4日目以降になって、血球密度の上昇が認められたが、対照蚕と比較すると低いレベルに留まった。一方の造血器官にのみ照射した場合、もう一方の造血器官による血球密度の補償作用は見られなかった。
木口 憲爾*; 金城 雄*; 正橋 佳世子*; Tu, Z.; 田村 元*; 白井 孝*; 金勝 廉介*; 小林 泰彦; 田口 光正; 渡辺 宏
JAERI-Review 2000-024, TIARA Annual Report 1999, p.51 - 53, 2000/10
日本原子力研究所高崎研究所の細胞局部照射装置を利用して、家蚕の初期発生制御機構の解析を進めている。これまでの研究から、重イオンマイクロビームを細胞性胞胚期卵のさまざまな部位に照射すると、照射面積、線量及び照射部位に応じて、照射卵から孵化した幼虫の体節や付属肢等に欠失、重複、融合などの形態異常が生じることが判明している。そこで、照射部位と異常発生部位との対応関係を追求、発生研究の基礎となる発生予定原基分布図(fate-map)の作成を試みた。その結果、胚域の前極側から後極側に向かって頭部から尾部形成領域が順に配列している原基分布図が得られ、受精前のまだ核のない部位へのUVレーザー照射によって得られた原基分布図と、今回作成した細胞性胞胚期卵のそれを比較すると、概略一致するものの、いくつか相異する点があることが明らかになった。
木口 憲爾*; 小林 泰彦
放射線と産業, (85), p.30 - 36, 2000/03
原研高崎研で開発された、重イオン照射によるラジオマイクロサージャリ技術を、カイコ受精卵及び幼虫の発生・分化研究に応用した。家蚕幼虫の造血器官存在部位を局部照射または全体照射し、血球の計数、血漿蛋白質の分析、遊離アミノ酸の測定などにより重イオン照射の影響を解析した。全体照射蚕の血球数は雌雄とも5齢起蚕から4日目までほとんど増加せず、熟蚕によりやや回復した。一方、造血器官存在部位のみへの局部照射によっても全体照射と同様の影響が認められ、造血器官存在部位への重イオン局部照射により、血球の機能解析が可能なことが示された。また、カイコ受精卵を炭素イオンマイクロビームで局部照射し、形態異常を誘導する臨界照射面積及び線量、照射部位と異常発生部位との対応関係、照射により損傷を受けた核・細胞の形態変化を調べ、細胞性胞胚期卵のさまざまな部位への局部照射によって誘起された胚子の形態異常の分布から、発生運命予定図(fate map)を作成した。
小林 泰彦; 田口 光正; 渡辺 宏; 山本 和生*; 山崎 修平*; Tu, Z. L.*; 金城 雄*; 木口 憲爾*
Proceedings of 11th International Congress of Radiation Research (ICRR-11), 2, p.182 - 186, 2000/00
生物に対するイオンビームの照射効果を詳細に解析するためには、従来のランダムな照射方法から脱却して細胞の特定部位に照準した局部照射による影響を明らかにする必要がある。また重イオンマイクロビームは特定の細胞への局部照射による細胞群の機能解析や胚原基マップ作成などの研究に応用できるほか、新しい細胞微細加工技術に発展する可能性を持っている。そのためわれわれは、アパーチャー系でコリメートした重イオンマイクロビームを大気中に取り出して顕微鏡観察下の生物試料に照射する装置を製作し、AVFサイクロトロンの垂直ビームラインに設置した。この生物用重イオンマイクロビームを用いて原研で進めている、カイコ発生初期卵に対する重イオン局部照射効果及びカイコ受精卵の発生過程の解析研究について概説する。
木口 憲爾*; 島 拓郎*; 金城 雄*; Tu, Z. L.*; 山崎 修平*; 小林 泰彦; 田口 光正; 渡辺 宏
JAERI-Review 99-025, TIARA Annual Report 1998, p.53 - 55, 1999/10
日本原子力研究所高崎研究所の細胞局部照射装置を用いてさまざまな生物の受精卵や胚子を重イオンで局部照射することによって、発生過程の解析が可能である。カイコは、その遺伝学的バックボーンや形態的・生理的な特徴から、この実験目的には理想的な材料の一つである。そこで、重イオン局部照射がカイコの初期発生過程に及ぼす影響を調べるために、受精直後の卵及び細胞性胞胚期卵に炭素イオンを局部照射し、照射された分裂核及び細胞の形態変化を観察したところ、照射を受けた分裂核は、その後分裂できずに肥大化し、その多くは正常に移動を続けて周辺細胞質に到達するが、一部は脱落して周囲の正常核と置換する場合があることがわかった。また受精直後卵を局部照射した場合は、発生した胚子には照射による影響が見られなかったのに対し、細胞性胞胚期卵への局部照射では、照射部位に対応した形態異常が胚子に誘導された。
Tu, Z. L.*; 白井 孝治*; 金勝 廉介*; 木口 憲爾*; 小林 泰彦; 田口 光正; 渡辺 宏
日本蚕糸学雑誌, 68(6), p.491 - 500, 1999/00
昆虫に適用可能な重イオンビームによるラジオサージャリ技術を確立する目的で、原研高崎研の深度制御種子照射装置を用いて家蚕幼虫の造血器官存在部位(翅原基付近)を局部照射または全体照射し、血球の計数、血漿蛋白質の分析、遊離アミノ酸の測定などにより重イオン局部照射の影響を解析した。重イオン全体照射蚕の血球数は雌雄とも5齢起蚕から4日目までほとんど増加せず、熟蚕になりやや回復した。血中のアミノ酸含量も対照蚕より減少した。SDS-PAGEでは、照射蚕の血漿中に特異的に増加する蛋白質のバンドが80kDa付近に認められた。一方、造血器官存在部位のみへの局部照射によっても全体照射と同様の影響が認められた。以上の結果から、造血器官存在部位への重イオン局部照射により、血球の機能解析が可能と考えられる。
Tu, Z. L.*; 山崎 修平*; 白井 孝治*; 金勝 廉介*; 木口 憲爾*; 小林 泰彦; 田口 光正; 渡辺 宏
日本蚕糸学雑誌, 68(6), p.443 - 453, 1999/00
重イオンビームの家蚕に及ぼす生物影響とその利用法を開発する目的で、家蚕の4・5齢幼虫に重イオンを全体あるいは局部照射し、その後の成長及び形態形成に及ぼす影響を調べた。Cイオン及びHeイオンの全体照射実験から、両イオンの照射効果はほぼ同様であり、4齢幼虫は5齢幼虫よりも感受性が高いこと、蛹化率及び羽化率は照射線量が増大するにつれて低下することがわかった。4齢催眠期幼虫及び熟蚕に局部照射した場合は、その後の生存に大きな影響は見られないが、照射部位に線量に応じて卵形成阻害や翅・鱗毛の欠失などの局部的な影響が誘導された。局部照射により熟蚕の組織・器官の重イオン感受性を調べたところ、生殖巣が最も感受性で(部分障害を誘導する表面線量=10~40Gy)、次いで外部生殖器、複眼、触角及び翅の原基等で高く(20~70Gy)、皮膚組織(150~175Gy)や神経系(500~900Gy)で低いことが明らかになった。これらの結果から、重イオンの局部照射によってラジオサージャリが可能であり、各種の生体機能解析研究に有用であることが示唆された。